塗籠日記その弐

とりふねです。ときどき歌います。https://www.youtube.com/user/torifuneameno 堀江敏幸・宮城谷昌光が好きです。

「リバティーン」と「堕落論」、堕ちぬくためには弱すぎる

http://www.apple.com/trailers/weinstein/thelibertine/trailer/
美しくいとおしい映画。役者ジョニー・デップの力と美しさにぐらぐらし、溺れる。お袖のふりふりがあまりにもよく似合う。ロチェスター伯爵を演じるジョニーは、映画の中でも「ジョニー」と呼ばれる。それがなんともたまらない。「実生活に何も感じないから、芝居に感動したいんだ」「人生には何の意味もない。人の行動には何の力もない。だが芝居小屋では善悪すべての行為に結果がついてくる。芝居は私にとって唯一の薬だ」という主人公にどっぷりと感情移入する。女優陣もそれぞれに魅力的。libertine放蕩者ロチェスターは虚無感まんまんの愛されたがりだ。究極の甘えん坊・だめんずムービー。「だめんず・うぉーかー」の女の子達はみんなめろめろになるだろう。札幌では昨日が最後だった。観に行けてよかった。そーぶくんに感謝。(ジョニー・デップの顔がときどき劇団ANDの亀井君に似ていたことを付け加えておこう。)
たまたま、先日日記で坂口安吾の「堕落論」の話が出た。あまりにもこの映画にぴったりなので引用する。

戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄の如くでは有り得ない。人間は可憐であり脆弱(ぜいじゃく)であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。人間は結局処女を刺殺せずにはいられず、武士道をあみださずにはいられず、天皇を担ぎださずにはいられなくなるであろう。だが他人の処女でなしに自分自身の処女を刺殺し、自分自身の武士道、自分自身の天皇をあみだすためには、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。そして人の如くに日本も亦堕ちることが必要であろう。堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。政治による救いなどは上皮だけの愚にもつかない物である。
坂口安吾堕落論