塗籠日記その弐

とりふねです。ときどき歌います。https://www.youtube.com/user/torifuneameno 堀江敏幸・宮城谷昌光が好きです。

インフルエンザBの精霊と「トゥーランドット」

この精霊のおかげで、昨日の午後は、流してしか聴いていなかった、カラヤン指揮のプッチーニのオペラ「トゥーランドット」の2枚組CDを、しっかり歌詞を見ながら聴くことができた。もともと、さほどのクラシック聴きでもないわたしが、「トゥーランドット」の名を意識したのは10年以上も前の「ホックニーのオペラ」展でのことだった。芸術の森で、ディヴィッド・ホックニーの舞台美術を写真と紙の模型で見せたものだ。この展示はものすごく気に入って、そのときいくつかのオペラもインプットされたというわけだ。とくに「トゥーランドット」は、その言葉、名、音の響きにとてもひきつけられた。何かのはずみで、去年あたりに買ったのを今回じっくり聴いたのだが、物語の単純で劇的な美しさ、主なるメロディーや歌詞の、身悶えするようなロマンチックさ、音楽全体のきらびやかさ、キッチュでエクゾティックなメロディーと、わたしの好みにぴったりのものだった。


ぼんやりのわたしにとって衝撃的だったのは、ひととおり聴き終わって解説を読んでいたときのこと。これはプッチーニの遺作だったのだ。この作品を創っているそのときに彼は咽頭癌に罹り、草稿はのこしたものの、クライマックスの直前のリューのアリアを書き上げて、絶命していたのだ。「私の咽喉の病気は、私にとって、肉体よりもむしろ精神の苦しみです。」「もしも私が死んで、オペラが未完成のままになってしまったら、誰か舞台に立っていって聴衆に『このところで、作曲者は死にました』と告げなければならないだろう…」というプッチーニの言葉。そして彼の死後の初演、第3幕のリューの死の場面でトスカニーニが指揮棒を置き、「ここで、この部分で、ジャコモ・プッチーニは彼の仕事を終えました。彼にとって死は芸術よりも強かったのです」と言った、というエピソードで、泣いた。その事実は、それでなくても美しい作品の美しさに別な相を見せる。この作品は更に私の好きなものになった。トゥーランドット~チャン・イーモウ演出の世界~ [DVD]トゥーランドット*歌劇 [DVD]


そういうわけで、これも前からほしかったDVDを注文してしまった。入荷待ちだが。チャン・イーモウ演出で紫禁城で上演されたものだ。記録の方(右)もDVDで出ているけれど、やはりオペラそのものが見たいものね。