塗籠日記その弐

とりふねです。ときどき歌います。https://www.youtube.com/user/torifuneameno 堀江敏幸・宮城谷昌光が好きです。

「つくも神」伊藤遊 ポプラ社

鬼の橋 (福音館創作童話シリーズ)えんの松原 (福音館創作童話シリーズ)つくも神 (ポプラの森)
以前「鬼の橋」や「えんの松原」を楽しんで読んだが、この「つくも神」については、ちょっと自分の期待とはちがったな。友人関係が微妙な小学生の女の子、ちょっと悪くなりかけの中学生のお兄ちゃん、マンションの人間関係に疲れ気味のお母さん、と今日的な設定だが、かんじんの「つくも神」たちの存在感が薄い。闇の描写があるが、その闇の濃さや重さが感じられない。「つくも神」といえば、伊藤若冲の「付喪神」の絵や、百鬼夜行的な奇怪さをイメージしていたが、この物語にでてくるのは、アニメキャラみたいな平坦さのツクモ君たちだ。挿絵も表紙のネツケがえる意外はだめだった。(はじめこの表紙を見て期待したのだが。)Dr.スランプアラレちゃんのおもむきで、クライマックスの土蔵のシーンも全部絵にしてしまうものだから、想像力の使いようがない。怒濤の感動を望んだわけではないが、人物の心情も今ひとつ深く響いてこない。(もちろん小中学生の女子にはものすごくリアリティがあるのだろう。)「鬼の橋」「えんの松原」の二作は、やはり歴史ものゆえの魅力でポイントが高かったかな。現代ものにすると、評価が厳しくなるのかもしれない。アニメの原作か、「学校の怪談」のような映画の原作には、この浅さがちょうどよいかもしれないと思った。