塗籠日記その弐

とりふねです。ときどき歌います。https://www.youtube.com/user/torifuneameno 堀江敏幸・宮城谷昌光が好きです。

青森行その弐 弘前

JR奥羽本線弘前へ。弘前に宿を取らなかったことを少し悔やむ。なにか見るものがあるという期待はなかったけれど、とにかく、この街の、というかこの辺りの山の神様のところに行かなくてはという気持から、弘南バスで岩木山神社へ。これも片道620円とたっぷりの距離。とにかく暑い。本殿と横の龍神の社にもお参り。同行者は暑さにばてて、岩木山神社の手拭を買って即首に巻く。わたしは龍珠を買う。神社から弘前の街を見下ろす。そうそう、この行為が必要な気がしていた。見下ろすとはいえ、ここはまだまだ岩木山の裾のほうで、真打ちの神社は山頂にあるのだな。
バスのなかでの、おばあさんたちの会話に耳をそばだてながら、弘前市街にもどり、市役所前で降りるも、あまりの暑さにバスを吟味する気になれず、タクシーで禅林街、津軽藩主2代目以降の墓がある長勝寺へ。ところが本堂は修復中。今までの旅でもかならず一ヶ所は修復中のところに当たった。リサーチがあまい。羅漢さんたちのいるお堂しか見ることができなかった。ここには脇侍のように安寿と厨子王がいた。なぜ。長勝寺から禅林街の出口まであるく。これだけのお寺どうやって維持しているのだろう。何ヶ所かは工事中。暑さに耐えきれず再び乗ったタクシーの中で、その質問をするとやっぱり檀家さんであるという。それにしても、人口に比してお寺の数が多いだろう。檀家さんといっても若く無宗教の人の割合が増えるということはないのだろうか。長勝寺重要文化財だが、他の寺はそうではないだろうし。新寺町のほうにもこのようにだーっと寺が並んでいる場所がある。札幌に住むわたしにはよくわからないことだ。
 予定にはなかったが、とにかく一度建物に入りたくてねぶた村へ。りんごアイスで一息。とろろごはん定食がおいしい。ねぷた村の中では、夕べの五所川原とはちがう、弘前ねぷたの展示を見たり、囃子の実演をきいたりする。弘前のねぶたは、扇形の平面でありグラフィックに洗練されている。絵師はプロの人と、自分の生業が別にあって絵師としてもやっている人がいて、いろいろ流派もあるようだ。絵師による微妙なタッチのちがいもおもしろかった。ねぷたの由来や歴史、各地のちがいについてもざっとみる。そうそう、きのうは「ヤッテマレ、ヤッテマレ」というかけ声であった。弘前は「ヤーヤドー」だ。
展示を見ながら、高校のときお習いした、津軽出身の数学の先生のことを思い出した。生徒(友人)に津軽風の凧絵を描かせ、それを揚げていた。亡くなって久しい。数学の授業はゆる〜くやっておられたが、凧を揚げたり、竹とんぼを作って飛ばしたりしていた。休みの日に、イチゴ狩りやキノコ狩りに連れて行ってもらったこともある。今思えば、なんとのどかな教師と生徒の関係であろう。授業がゆるいといって(決して不誠実、不真面目というわけではない、なんとなく雰囲気がゆるいのだ)、保護者がクレームなどということもなく、生徒は勉強に関しては、教師のせいではなく、自分の責任と思っていた。そんなこと当たり前だったよね。勉強を教えてもらうという要求より(この時点では、読んでわからないこと、というのはそう多くはないし)、それぞれの先生(人間)からにじみでてくる旨味を味わうというのがおもしろかったなぁ。ああ、話が逸れた。
その後、重文「石場家」(江戸中期の商家を移築)まで歩き、お宅拝見。文化財ながら、現役の家、住んでいらっしゃるため、あがることはできない。土間でわんこも暑さにぐったりしていた。特製の原酒「鄙亀」を試飲。暑さ故か甘く感じたが、アルコール度数は高い。名前も気に入り1本購入。後日持っていった先で冷やして飲んだところ、全く印象がちがった。
http://www.ishibaya.com/
その後弘前城へ行くが、暑さでもうろうとしていた。
吉井酒造でやっている奈良美智関係の展覧会にも興味はあったものの、もうあれこれ見て回る集中力はないと判断、はてなの地図にコメントのあった居酒屋「あどはだり」へバスでむかう。津軽三味線がきけるところで、観光案内の地図に載っているほどの店だが、とてもよい感じのお店だった。祭りのあととて、さほど混んでもおらず、お料理にも、オリジナル曲「じゃわめき」を含めた三味線の演奏にも、ご主人のアーティスト気質を感じつつ、ゆったりと過ごした。同行者が、かねて津軽三味線が欲しい、習いたいと言っていたので、その話をすると、快く触らせてくださった。ミニレッスン付き。ベースと三味線では、やはりおそろしく勝手が違うようである。この機会をもって、同行者の三味線熱は再燃、インターネットで初心者用の三味線を検索しまくることとなった。「あどはだり」は「あと」から「はだる」=「ねだる」すなわち、おかわり、アンコールの意味だそうだ。広辞苑でひくと、「はたる(徴る)」という動詞があり、徴収する、求める、要求する、という意味があった。知らない言葉であり、おもしろく思った。2ステージの演奏とおいしいお料理、日本酒「あどはだり」を味わい、襲う睡魔にゆだねつつ奥羽本線で青森に戻った。ほんとうによいお店でした。
    「あどはだり」にて
 じゃわめきも酒も沁みゆくねぷた
 海鞘に酒主人shanteurの風情あり       白鴉亭
http://www001.upp.so-net.ne.jp/ryuken/adohadari.html