塗籠日記その弐

とりふねです。ときどき歌います。https://www.youtube.com/user/torifuneameno 堀江敏幸・宮城谷昌光が好きです。

愛護若

積んどいたヴォネガット「国のない男」(遺作)を読みはじめたのだが、昔あんなに好きだった作家の文章がなんだかぴんと来ない。つっかかる。訳が浅倉久志さんじゃないからなのか。(金原瑞人訳。)それともこちらの年齢の問題か。中ほどまで読んでやめてしまった。また折口信夫の「信太妻の話」を読む。事柄についての知識がないのと、残念ながら旧字の訓が読めないところがあって辞書で確認しつつ立ち止まりつつ読む。狐の産んだ子「童子丸」の名が寺奴たる村の人々全体を指していたところから一人物の名になったというのがおもしろい。そのあと折口の創作「身毒丸」を再読。あれは途中で終わっているのかな。先日読んだ「愛護若」のストーリーで、とても古い記憶がよみがえった。漂泊のはて訪ねた叔父にも打擲の上かえされ、不遇をかこって自らの指を噛み切り、歌を書き付けて身を投げたという話、絶対に子どものころにどこかで読んでいる。「松も一本、葉も一つ」というフレーズも記憶の底にある。どんな本で読んだのかが思い出せずもどかしい。先日の朗読会でも説経節を含んだ文章が読まれていたが、「信太妻」「愛護若」ともに説経節だ。今年は説経節からはじまった。昨年末に亡くなった恩師を偲びつつ少しずつ折口を読む。

 
 
 愛護世に出てめでたくば 枝に枝さき唐崎の 千本松と呼ばれよや
 愛護空しくなるならば 松も一本葉も一つ 志賀唐崎の一つ松と呼ばれよ 
と、涙と共に穴生(アナホ)の里に出で給ふ。

 

 かみくらやきりうが瀧へ身を投げる 語り伝えよ 松のむら立ち 
とうとう若は、身を投げた。其時十五歳とある。

折口信夫全集 第2巻 古代研究 民俗学篇1 (中公文庫 S 4-2)

折口信夫全集 第2巻 古代研究 民俗学篇1 (中公文庫 S 4-2)

国のない男

国のない男