塗籠日記その弐

とりふねです。ときどき歌います。https://www.youtube.com/user/torifuneameno 堀江敏幸・宮城谷昌光が好きです。

疋田豊治ガラス乾板写真展とシンポジウム

まず、この写真展は11月23日までやっています。時間がある方はぜひ行かれるとよいと思います。

http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~m16095/arts%20folder/arts/hikita_exhibition/index.html
総合博物館セミナー〜土曜市民セミナー(道民カレッジ連携講座)〜
「疋田豊治ガラス乾板写真展」関連シンポジウム 疋田写真の魅力
○司会 北村清彦(北大大学院 文学研究科教授 芸術学)
●パネリスト 尼岡邦夫(北大名誉教授 魚類分類学
       角幸博(北大大学院 工学研究科教授 日本近代建築史)
        港千尋多摩美術大学 美術学部教授 写真家)
        廣田理紗(島根県立石見美術館 学芸員 疋田写真研究者)

シンポジウムの前後に写真展。紙焼きをスキャンしてCANONでプリントしたものということでしたが、とてもきれいでした。北大などの古い建物の写真も数多くありましたが、わたしが気に入ったのは、ニシン漁の写真や、スケソウダラを干す写真など。前者は当時の人々の生き生きした表情や骨太な生活感がしっかりと記録されており、後者は生き物の存在感と写真としての美的なおもしろさにひきつけられます。俳句と写真って似ている。函館の水産学部の授業風景などからは、当時の学生の一生懸命な姿と疋田先生のあたたかいまなざしが感じられました。奥様と風景の作品は黒田清輝の絵のような趣。クラゲやヒトデ、皿上のシシャモの写真はキッチュ(この言葉は適当でないかもしれないけれど)なかわいらしさ、愉快さがありました。
シンポジウムに行ったのは、半分は港千尋氏目当て。先日の日経新聞レヴィ=ストロースの追悼文が美しかったので、シンポジウムに来られることを知り、直接話をきける機会逃すまじと参加しました。一応多摩美芸術人類学研究所友の会会員だし。東京のイベントは一切見に行けてないし。一緒に行ったお友達は彼の話を聞きながら、これは私(とりふね)のツボであろうと思っていたそうで、まことにその通り。内容もさることながら、抑制したトーンの声やお話しぶりが、完全にわたしのツボでした。すてき。内容は学術的記録的な写真の芸術的価値をどうとらえていくかといったことで、ヘッケルの写真など知らないこともあり(この日も前半は睡魔に襲われていたけれど、港氏の話のときは大丈夫だった。)興味深く聞きました。後半司会の北村先生からシュルレアリスムとの関わりの話が出たのもおもしろかった。(芸術学担当ということ、もしやと思っており、シュルレアリスムの話が出たとき、あっと思ったのだが、今調べてみたら、はやり北村清彦先生は、亡くなった村岸宏昭くんの指導教授だった。)話を聞きながらわたしは写真と「ことば」をくらべていました。写真の「記録性〜芸術性」はことばのそれと同じ。または「指示表出〜自己表出」? まあ、すべての「表現」はそうなのでしょうが。だからどんなに「記録」目的のものであっても、発した主体がある限り、それは表現であり、「作品」としての可能性を有しているのだと考えながら聞いていました。ヘッケルの名前をきいて宮沢賢治の詩を思い出していました。北大の総合博物館、こんなに身近にあるのにはじめて行ったという間抜けな話ですが、博物館の空気は宮沢賢治的だとあらためて思いました。または宮沢賢治の作品群が博物館の空気的。

宮沢賢治 青森挽歌 抜粋)
それからわたくしがはしって行ったとき

あのきれいな眼が

なにかを索めるやうに空しくうごいてゐた

それはもうわたくしたちの空間を二度と見なかった

それからあとであいつはなにを感じたらう

それはまだおれたちの世界の幻視をみ

おれたちのせかいの幻聴をきいたらう

わたくしがその耳もとで

遠いところから聲をとってきて

そらや愛やりんごや風、すべての勢力のたのしい根源

萬象同帰のそのいみじい生物の名を

ちからいっぱいちからいっぱい叫んだとき

あいつは二へんうなづくやうに息をした

白く尖ったあごや頬がゆすれて

ちいさいときよくおどけたときにしたやうな

あんな偶然な顔つきにみえた

けれどもたしかにうなづいた

   《ヘッケル博士!

    わたくしがそのありがたい證明の

    任にあたってもよろしうございます》

 假睡珪酸〔かすゐけいさん〕の雲のなかから
凍らすやうなあんな卑怯な叫び聲は……

ミュージアムショップで写真展の図録と安東ウメ子のCD「イフンケ」を購入。帰りはまた焼き鳥屋に行ってしまった。
そういえば、もうすぐ「レヴィ=ストロース」の庭が手に入りそう。「第三の眼」もいずれ読みたい。

レヴィ=ストロースの庭

レヴィ=ストロースの庭

新編 第三の眼―デジタル時代の想像力

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Ihunke(イフンケ)

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生物の驚異的な形

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