塗籠日記その弐

とりふねです。ときどき歌います。https://www.youtube.com/user/torifuneameno 堀江敏幸・宮城谷昌光が好きです。

中沢新一 ミクロコスモスI ミクロコスモスII

去年買って積ん読だったのをゆるゆる消化。いろいろな短い文章で読みやすい。「精霊の王」「緑の資本論」「アース・ダイバー」「カイエ・ソバージュ 対称性人類学」などのエッセンスが随所にあり、平易な言葉で語られているのでうれしい。中には、切り抜きでストックしてあったものや他の著者の本に寄せられていて既読のものもあった。まとめと抜き書き。
ミクロコスモスI

  • 夜の知恵 アメリカ先住民の神話。梟と貪欲とディスコミュニケーションの密接な結びつき。イニシエーションとしてのカンニバルと梟の結びつき。〜いつもへその緒が「大いなる無」につなげられているときにのみ、現実は意味というものを発生させることができる。→「狩猟と編み籠」で展開されている考え方につながるのかな。@と
  • 土器のなかのスローフード レヴィ=ストロースの料理の三角形にならって日本の食文化の基本構造を描く。土器でコトコト煮詰められたものは、火と素材のあいだに複雑な媒介が入っているから文化的なスローフード。「共同体」の内側へ向かう。生のものと焼いたものは媒介を必要としない。それを食べる人を「自然状態」に近づける。神が来臨する聖なる場ではこれらが供応される。共同体の組織がほぐされ、「組合」的な組織へ。お米は貨幣、資本、都市的なものの象徴。「神」の領域に属する食べ物だった。「寿司」はその都市的な要素である米に脱共同体的な生のものをのせ江戸という大都市で発達したファストフード。
  • 孤独な構造主義者の夢想 フーコーラカン・バルトとは異質な構造主義レヴィ=ストロースの思想。その「構造」の独自の意味。彼の思想はほんとうに理解されてきたかという疑問。ここでおもしろかったのは、ピカソ作品に対するレヴィ=ストロースのいらだち。もとの場所からいったん切り離された自然を自然そのものとして扱い操作しているという点で。それからウィリアム・ワイラーの映画「コレクター」についての解釈。神話と音楽との相似。ここは抜いておこう。

ひとつの神話が何を語らんとしているのか、その意味をあきらかにするためには、神話相互のあいだに発見されるこの変形の連鎖を、どこまでも探求していく必要が出てくる。こうして、神話というものは、あらゆるレヴェルにわたって、時間性の流れと非時間的な構造との交差点に意味を発生させている、言葉の技芸だということがわかってくる。そこで、レヴィ=ストロースは「神話論理I 生のものと火を通したもの」の「序曲」に、次のように書きつけるのである。「……すべては音楽と神話が、あたかも時間をはっきりと否定するためにのみ時間を必要としているかのように進みゆくのである。両者はじっさい、時間を消滅させるための道具である。表面にあらわれる音とリズムの下では、音楽はリスナーの生理的時間という荒れ地の上に展開する。不可逆であるがゆえに、とりかえしのつかない通時的な時間。だが音楽は、自らを聴かれることにささげた曲の一部分を、音楽のなかにふくみこまれた共時的な全体に変貌させる。音楽作品を聴くときは、それ自身の内的な組成のゆえに、流れゆく時間は固定化される。風にはためくテーブル・クロスのように、音楽は時間をつかまえ、折りたたもうとする。したがって音楽を聴きながら、あるいは音楽を聴いているあいだは、われわれはある種の不死インモルタリテの状態に入っている。」ある曲のなかのひとつの音符でさえ、その意味は全体性につながっていて、音楽全体が終わったときにはじめてあきらかになるような性格をもっている。……音楽は人間の思考の世界に生まれてきたばかりのときには、ある種の不死の状態として、出現する。音楽を聴く人の内部では、ちょうどそれと対称的なプロセスを通じて、聴くそばから消えていく音楽をとおして、ある種の不死性の体験がもたらされるようになるのである。ラカンはこういう事態をとらえて、「女は存在しない」と表現した。……女というものには、思考によってその全体を捕らえることができるような「すべての」というものがない。女は存在の底が無限に向かって開かれている、だから「女は存在しない」というわけである。

そういえば以前読んだレヴィ=ストロース「神話と意味」(カナダのラジオ番組でのインタビューを本にしたとても読みやすいもの)に音楽の話があったなと、引っぱり出して読む。ワグナーの話は純粋に音楽のことではないような気もするが(ブリュンヒルデが出てきた! ポニョ!)、バッハのフーガがある種の神話の構造と同じなどというところがおもしろい。言語と(西洋)音楽と神話の比較も簡単にしか述べられていないがおもしろい。

気が向いたらまたあとで書く。

ミクロコスモス I

ミクロコスモス I

ミクロコスモス II

ミクロコスモス II

神話と意味 (みすずライブラリー)

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